「休んでいいのだろうか」——24時間の在宅ケアを続けるご家族から、こうした言葉をよくお聞きします。人工呼吸器や気管切開など医療的ケアを伴う暮らしでは、介護者が一晩でも家を空けることに強い不安がつきまといます。しかし実は、家族が休むための入院・預かり制度が、埼玉県内にはすでに用意されています。
先に、要点をまとめます。
- 埼玉県は指定難病患者向けに在宅難病患者一時入院事業を実施しています。人工呼吸器装着や気管切開があり在宅療養中の方が対象で、1回14日以内・年度56日まで、医療機関に一時入院できます(出典: 埼玉県「在宅難病患者一時入院事業について」)
- さいたま市は重症心身障害児者向けにレスパイトケア事業を実施しています。医療機関・介護老人保健施設・日中一時支援事業所を利用でき、ショートステイは1日1万円〜2万円、デイサービスは1日1,500円〜2万円の助成があります(出典: さいたま市「在宅重症心身障害児者の家族に対するレスパイトケア事業」)
- どちらも申請は事前が原則です。県の一時入院事業は利用希望日のおおむね2か月前から、市のレスパイトケア事業は年度ごとに利用申請が必要です
この記事の後半では、「レスパイトを使うと、いつものヘルパーとの関係が途切れてしまうのでは」という、実際に制度を使う前に多くのご家族が気にかかる点についても触れます。休むことに罪悪感を持つ必要はありません。むしろ、介護を続けるための備えとして、あらかじめ知っておいていただきたい制度です。
レスパイトとは何のための制度?
介護者(家族)が休養や冠婚葬祭、自身の通院などで一時的に介護から離れられるよう、要介護者を短期間預かる仕組みです。
「レスパイト」は英語の respite(一時休止・小休止)に由来する言葉で、介護分野では「介護者支援」の意味で使われます。24時間体制の重度訪問介護を利用していても、夜間の見守りや急な体調変化への対応など、家族にしかできないと感じてしまう場面は残ります。レスパイトは、その負担を制度として一時的に肩代わりするためのものです。
在宅で長期にわたる医療的ケアを担うご家族の負担については、在宅介護がつらい…家族の負担を減らす方法と頼れるサービスまとめでも整理していますが、レスパイトはその中でも「まとまった休養」を目的とした制度という位置づけになります。
埼玉県の在宅難病患者一時入院事業はどんな制度?
指定難病医療受給者証を持ち、人工呼吸器または気管切開がある在宅療養中の方が、介護者の休養等を理由に一時的に医療機関へ入院できる制度です。
対象要件は、埼玉県の公式ページによると次のとおりです(出典: 埼玉県「在宅難病患者一時入院事業について」)。
- 埼玉県に住所があり、指定難病医療受給者証等を所持している
- 在宅療養中で、病状が安定している
- 人工呼吸器装着(NPPVなど非侵襲的な人工呼吸器を含む)または気管切開をしている
- 主治医の同意がある
利用できる理由は「介護者(ケアラー)の休養」のほか、冠婚葬祭等の行事、介護者自身の病気等で介護ができないときも含まれます。つまり、家族の体調不良や急な用事にも対応できる制度です。
利用期間は1回14日以内(延長は不可)、年度を通じて56日まで利用できます。回数そのものに制限はないため、複数回に分けて計画的に利用することも可能です。費用は医療保険と指定難病医療受給者証の範囲内での自己負担額が基本で、移送費や差額ベッド代などの雑費は自己負担になります。
申請は住所地を管轄する保健所が窓口です。利用希望日のおおむね2か月前から申請を受け付けており、初めて利用する場合は1か月前の申請が推奨されています。令和8年4月1日現在、県内29の医療機関が受け入れに対応しています(出典: 埼玉県「在宅難病患者一時入院事業について」)。ALS・筋ジストロフィーなど、人工呼吸器管理が必要な進行性の病気を抱えるご家族にとって、地域内で使える現実的な選択肢のひとつです。
さいたま市のレスパイトケア事業はどんな制度?
重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複し、その状態が6か月以上継続している方が対象の、さいたま市独自の助成制度です。
さいたま市公式サイトによると、対象は「重度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している」状態がスコア表の各項目で6か月以上継続している重症心身障害児者です(出典: さいたま市「在宅重症心身障害児者の家族に対するレスパイトケア事業について」)。埼玉県の一時入院事業が「指定難病×人工呼吸器・気管切開」を対象にしているのに対し、さいたま市の制度は「重症心身障害」という別の切り口で対象を定めている点が異なります。両方の要件に当てはまるご家庭も少なくありません。
利用先は、市内の医療機関、介護老人保健施設、または看護師が配置された日中一時支援事業所です。ショートステイ(宿泊を伴う預かり)とデイサービス(日帰りの預かり)の2種類があり、助成額はスコアによって次のように変わります。
- ショートステイ: スコア25点以上で1日20,000円、25点未満で1日10,000円
- デイサービス: 利用時間・支援体制に応じて1日1,500円〜20,000円
申請は二段階です。まず利用申請書とスコア表を住所地の各区役所支援課に提出し、その後、助成金の支給申請書を市役所障害福祉課に提出します。いずれもオンライン申請に対応しています。申請は年度ごとに必要で、利用開始前の手続きが原則です。
さいたま市以外にお住まいの場合は、居住する市区町村に同様の制度がないか、まず障害福祉課に確認することをおすすめします。埼玉県内では鶴ヶ島市のように、独自の障害者レスパイトサービス助成事業を設けている自治体もあります。
重度訪問介護を使っていても、レスパイトは併用できる?
できます。重度訪問介護は日常の在宅ケアを、レスパイト制度は「まとまった休養」を担うもので、役割が異なるため両立が前提の制度です。
重度訪問介護は、ヘルパーが自宅に入り日常生活全般を支える「毎日のケア」です。一方でレスパイトは、家族自身が数日間ケアから完全に離れるための「非日常の預かり」にあたります。どちらか一方を選ぶものではなく、両方を組み合わせることで、日常のケア負担と、介護者自身の体調管理・私用の両方に対応できます。
レスパイトを利用する期間中は、いつものヘルパーとの関わりが一時的に途切れることになります。この点を気にされるご家族は多いのですが、事前に相談支援専門員へ利用計画を共有しておけば、レスパイト終了後にこれまでと同じ体制へスムーズに戻すための調整がしやすくなります。サービス等利用計画の位置づけについては、相談支援専門員って何をしてくれる人?サービス等利用計画とセルフプランの違いで詳しく解説しています。
具体的には、レスパイト先の医療機関・施設に対して、ふだんの重度訪問介護事業所が行っている医療的ケアの手順や本人の生活リズムを、あらかじめ書面で共有しておくという方法があります。喀痰吸引のタイミング、経管栄養の時間帯、コミュニケーションの取り方など、日々のケアの中で当たり前になっている情報ほど、初めて対応する側には伝わりにくいものです。この共有作業自体を、ふだん通っているヘルパー事業所に手伝ってもらえるかどうかも、事業所選びの一つの判断材料になります。
なお、災害時の一時的な避難・入院先の確保という観点からは、災害・停電が起きたら、うちの家族はどうなる?|重度訪問介護を使う在宅家族の災害備えガイドで触れた「かかりつけ以外の医療機関との接点」を平時からつくっておくという意味でも、レスパイト制度の活用は備えの一つになります。実際にレスパイトで一度入院を経験しておくと、災害時など予定外の入院が必要になった場合にも、本人・家族双方の心理的なハードルが下がるという副次的な効果もあります。
レスパイトを利用するときの3つの準備
実際に制度を利用する際、あらかじめ整えておくと安心なポイントをまとめます。
- 主治医・訪問看護への早めの相談、埼玉県の一時入院事業には主治医の同意が必要です。日頃の診察の際に「休養のための一時入院を検討している」と伝えておくと、いざというときの手続きがスムーズになります
- 情報提供書・スコア表など書類の準備、県の制度では在宅療養状況等の情報提供書、市の制度ではスコア表が必要です。日々の医療的ケアの内容や頻度を記録しておくと、書類作成の負担が減ります
- ヘルパー事業所との情報共有、レスパイト利用中・利用後のケア内容に差が出ないよう、ふだんの体調管理や医療的ケアの手順を重度訪問介護の事業所とも共有しておきましょう
これらの準備は、いずれも制度を使うと決まってから慌てて揃えるものではなく、ふだんのケア記録の延長線上でできることばかりです。たとえば喀痰吸引の頻度や排痰のタイミングは、訪問看護やヘルパーの記録をそのまま流用できることが多く、あらためて一から書き起こす必要はありません。「使うかどうかまだ分からない」段階から、こうした記録を残す習慣をつけておくこと自体が、いざというときの申請のハードルを下げてくれます。
また、埼玉県の一時入院事業とさいたま市のレスパイトケア事業は、どちらも申請から利用までにある程度の期間を要する制度です。「そろそろ限界かもしれない」と感じてから申請しても、実際に利用できるのは数週間から数か月先になることがあります。だからこそ、まだ余裕があるうちに一度申請の流れだけでも確認しておくことが、結果的に家族を守ることにつながります。
持ち帰っていただきたいのは、次の2点です。
- 休養は特別なことではなく、埼玉県・さいたま市がそれぞれ制度として用意している選択肢であること
- 重度訪問介護とレスパイトは対立するものではなく、日常と非日常を分担する関係にあること
在宅でのケアは、終わりの見えない毎日の積み重ねです。だからこそ、「限界が来る前に休む」という選択肢を、あらかじめ知っておくことに意味があります。
埼玉県で重度訪問介護をお探しの方へ
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- 全スタッフが医療的ケア資格を保有、喀痰吸引・経管栄養にどのスタッフでも対応可能
- 24時間365日対応、レスパイト利用前後の体制調整にも柔軟に対応
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よくある質問
レスパイト入院は誰でも使えますか?
制度ごとに対象者が決まっています。埼玉県の在宅難病患者一時入院事業は指定難病医療受給者証を持ち人工呼吸器・気管切開がある方、さいたま市のレスパイトケア事業は重度の知的障害と肢体不自由が重複し6か月以上継続している方が対象です。まずはお住まいの市区町村や保健所にご確認ください。
申請してからどのくらいで利用できますか?
埼玉県の一時入院事業は利用希望日のおおむね2か月前からの申請が必要です。初めて利用する場合は1か月前の申請が推奨されています。さいたま市のレスパイトケア事業は年度ごとの利用申請が必要なため、早めの準備をおすすめします。
重度訪問介護を使っていてもレスパイトは利用できますか?
利用できます。重度訪問介護は日常の在宅ケアを担い、レスパイトは家族がまとまった休養を取るための制度です。役割が異なるため、両方を組み合わせて利用することが前提になっています。
さいたま市以外に住んでいても使える制度はありますか?
さいたま市以外にお住まいの場合は、居住する市区町村独自の助成制度がないか確認が必要です。埼玉県の在宅難病患者一時入院事業は県内在住で要件を満たせば利用でき、鶴ヶ島市のように独自のレスパイト助成を設けている自治体もあります。
費用はどのくらいかかりますか?
埼玉県の一時入院事業は医療保険と指定難病医療受給者証の範囲内の自己負担が基本で、移送費・差額ベッド代は自己負担です。さいたま市のレスパイトケア事業はスコアに応じて助成額が変わり、ショートステイは1日1万円〜2万円、デイサービスは1日1,500円〜2万円の助成があります。
