「もし台風で停電になったら、人工呼吸器はどうなるのだろう」
「大きな地震が起きたとき、ベッドから動けない家族をどうやって避難させればいいのか」
重い障害を抱えるご家族と暮らしていると、ふつうの「災害対策」とは桁違いの不安がのしかかります。停電が数十分続くだけで命にかかわる方もいますし、避難所に行くこと自体が難しいケースも少なくありません。
それでも、ここ数年で、在宅で重い障害がある方の災害対策は、行政の制度として一歩ずつ整いつつあります。鍵になるのが、「個別避難計画」と、在宅人工呼吸器使用者への公的支援です。
この記事では、[重度訪問介護](/columns/what-is-severe-home-care)を使いながら自宅で暮らすご家族向けに、災害・停電にそなえて今からできることを整理します。出典は内閣府・厚生労働省・埼玉県の公式情報です。
「個別避難計画」って何?うちの家族も対象?
令和3年(2021年)に改正された災害対策基本法によって、避難行動要支援者ごとに「個別避難計画」を作ることが市町村の努力義務になりました(出典: 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」)。
個別避難計画とは、ひとことで言うと「災害のとき、この人をどう避難させるか」を一人ひとり具体的に決めておく計画書です。
計画には、たとえば次のような内容が書き込まれます。
- - 誰が避難支援を行うか(支援者の氏名・連絡先)
- - どのルートで、どの避難場所に向かうか
- - 移動手段(車椅子・ストレッチャー・福祉車両など)
- - 持ち出しが必要な医療機器・薬の一覧
- - 支援する人が気をつけるべきポイント(医療的ケアの注意点など)
対象になるのは、自分一人では避難するのが難しい方です。要介護高齢者や障害のある方が想定されており、重度訪問介護を使っているご家族の多くが該当します。
埼玉県内では、令和6年4月1日時点で全63市町村が個別避難計画の作成に着手しています(出典: 埼玉県「災害時に避難支援を必要とする方への対策」)。お住まいの市町村ですでに対象になっている可能性があるので、まずは確認することが第一歩です。
まず家族がやるべき3つのこと
「うちの家族はもう個別避難計画に入っているの?」と思ったら、次の順番で動いてみてください。
1. 市町村の障害福祉課・福祉政策課に問い合わせる
「個別避難計画の対象になっているか」「まだなら、どう申し出ればよいか」を確認します。窓口は自治体によって名称が違い、障害福祉課・福祉政策課・防災課などにまたがることもあります。電話一本で十分です。どこに相談すればよいかわからない場合は、[埼玉で介護の相談をしたい|無料で頼れる窓口と相談先一覧](/columns/saitama-consultation-guide)もあわせてご覧ください。
2. 相談支援専門員・ケアマネに共有する
計画づくりには、本人の生活実態をいちばんよく知っている専門職の協力が欠かせません。重度訪問介護を利用しているなら、サービス等利用計画を作っている相談支援専門員にも声をかけましょう。「防災と福祉の連携」と呼ばれる動きで、福祉専門職が個別避難計画づくりに関わる仕組みが、厚生労働省と内閣府の連名で全国に広がりつつあります(出典: 厚生労働省「高齢者・障害者等の個別避難計画に関する 防災と福祉の連携モデル事業」)。
3. ヘルパー事業所にも相談する
毎日いちばん長く本人のそばにいるのは、重度訪問介護のヘルパーであることが多いはずです。「災害時、ヘルパーが在宅していたらどう動くのか」「事業所としての対応方針はあるか」を、ふだんから話題にしておくと安心です。
在宅で人工呼吸器を使っている方への支援
人工呼吸器を使っている方にとって、停電は命に直結します。短時間ならバッテリーで持ちますが、長時間の停電や災害時には、別の備えが必要です。在宅で人工呼吸器とともに暮らす仕組みの全体像は[人工呼吸器をつけても自宅で暮らせる?在宅生活を支える仕組み](/columns/ventilator-home-life)でも詳しく扱っています。
埼玉県では、在宅で人工呼吸器を使っている難病・特定疾患の方を対象に、次のような支援が用意されています(出典: 埼玉県「在宅人工呼吸器使用患者支援事業について」)。
- - 在宅人工呼吸器使用患者支援事業 — 指定難病・特定疾患の方が、診療報酬で定められた回数を超えて訪問看護を受ける場合、超過分の費用が公費で負担される制度
- - 在宅ALS患者の災害時支援協定 — 県内で災害や停電が起きたとき、人工呼吸器メーカー・日本ALS協会埼玉県支部・埼玉県の三者で、患者の安全を確保するための協定
また、市町村によっては独自の取り組みもあります。自家発電機や予備バッテリーの貸与・補助制度は、年度や予算によって内容が変わるため、最新の情報は必ず市町村の障害福祉担当窓口や保健所に確認してください。
自宅でできる、ふだんからの備え
公的な制度と並行して、ご家庭でできる備えもあります。重度の障害がある方の場合、一般的な防災袋にプラスして、次のようなものを準備しておくと安心です。
- - 電源の備え — 人工呼吸器・吸引器の予備バッテリー、車のシガーソケットから給電できるインバーター、可能なら家庭用蓄電池や発電機
- - 医療物品のストック — 気管カニューレ、吸引チューブ、経管栄養剤、常用薬を最低でも1〜2週間分。災害時は流通が止まり、医療機関の在庫も逼迫します
- - 連絡先リスト — 主治医、訪問看護ステーション、重度訪問介護事業所、相談支援専門員、市町村の災害担当窓口を1枚の紙にまとめて、見える場所に貼っておく
- - 本人のケア手順書 — ふだんのケア方法・コミュニケーション手段(文字盤・視線・まばたきの合図など)を文書化。避難先の医療スタッフや支援者にすぐ渡せるようにしておく
- - 避難先の確認 — 一般の避難所では医療的ケアが難しい場合があります。市町村の「福祉避難所」の場所・受け入れ条件を事前に確認
特にケア手順書は、入院時にも役立つので、[入院しても、いつものヘルパーにそばにいてほしい|入院中の重度訪問介護ガイド](/columns/hospital-stay-severe-care-guide)でも触れています。「いざというとき、いつものケアをそのまま続けてもらえる」ための共通の道具です。
ヘルパーが在宅中に災害が起きたら
重度訪問介護は1回の支援時間が長く、夜間も含めてヘルパーが在宅している時間が長いサービスです。災害がヘルパーの支援中に発生する可能性も、現実問題として想定しておく必要があります。
家族として確認しておきたいのは、次のような点です。
- - 事業所として、災害時の連絡フローと安否確認の手順が決まっているか
- - ヘルパーの安全確保(避難の判断)について、本人・家族との優先順位の共有
- - 主治医・訪問看護との緊急連絡のルート
- - ヘルパー自身が被災して出勤できないとき、代替の支援者はどこから来るか
訪問看護・訪問診療・重度訪問介護の役割分担の基本は、[重度訪問介護と訪問看護・訪問診療はどう違う?在宅医療との連携ガイド](/columns/home-medical-coordination)で整理しています。災害時は平時以上にこの「役割分担」が効いてくるので、平時のうちに整理しておくことをおすすめします。
ノベラクトケアでも、こうした論点は事業所として整理を進めています。気になる点があれば、サービス担当者会議や日常の引き継ぎの場で率直に相談していただければと思います。
まとめ:「災害のとき、誰が、どう動くか」を一枚の紙にする
重度の障害があるご家族の災害対策は、「家族だけで備えるもの」ではなくなりつつあります。市町村・相談支援専門員・訪問看護・重度訪問介護事業所・主治医、それぞれが少しずつ役割を持ち、それを束ねるのが個別避難計画という仕組みです。
完璧な計画を一度に作る必要はありません。まずは、
- 市町村に「うちは個別避難計画の対象か」を電話で確認する
- 相談支援専門員・ヘルパー事業所と災害時の話を一度する
- 連絡先と医療物品のストックを「見える場所」に置く
この3つから始めてみてください。
ご相談・お問い合わせ
ノベラクトケアでは、災害時の対応を含めた重度訪問介護のご相談を無料で承っています。
- - 電話: 048-871-6572(平日9:00〜18:00)
- - お問い合わせフォーム: [/contact](/contact)
- - 対応エリア: 埼玉県川越市・さいたま市を中心に、ふじみ野市・富士見市・志木市・所沢市・朝霞市など埼玉県内に対応
「まだ災害は起きていないが、念のため備えておきたい」という段階でも構いません。お気軽にご連絡ください。
参考・出典
- - 内閣府「避難行動要支援者の避難行動支援に関すること」
- - 内閣府「『個別避難計画の作成』が努力義務に」
- - 厚生労働省「高齢者・障害者等の個別避難計画に関する 防災と福祉の連携モデル事業」
- - 埼玉県「災害時に避難支援を必要とする方への対策」
- - 埼玉県「在宅人工呼吸器使用患者支援事業について」
- - 埼玉県「難病患者さんの平時からの災害への備え」
※制度の具体的な運用は市町村ごとに異なり、随時更新されます。最新かつ詳細な内容は、必ずお住まいの市町村の障害福祉担当窓口・保健所にご確認ください。
