「この子が大人になったとき、契約とかお金の管理とか、誰がどうやって助けてくれるんだろう」——重度の知的障害・精神障害のあるお子さまを育てるご家族や、加齢とともに判断がむずかしくなってきたご家族を介護する方から、こうした不安の声をよく伺います。実はこの不安に答える公的な制度として「成年後見制度」があります。
先に、要点をまとめます。
- 成年後見制度は、判断能力が不十分な方の契約・財産管理を法律的にサポートする制度で、「後見・保佐・補助」の3類型があります
- 重度訪問介護など障害福祉サービスの契約自体は、判断能力があれば本人が結ぶのが基本で、すべての利用者に成年後見人が必要なわけではありません
- 申立ての費用は数千円程度からですが、鑑定が必要な場合は別途実費(数万円〜10万円程度)がかかり、経済的に厳しい場合は市区町村の利用支援事業で補助を受けられる場合があります
なお、成年後見制度は「使うべきかどうかの見極め」が実はいちばん難しいポイントです。記事の後半で、重度訪問介護を利用しているご家庭が制度を検討すべき典型的なタイミングを整理します。
成年後見制度とはどんな制度?
認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が十分でない方の契約や財産管理を、家庭裁判所が選んだ後見人等が法律的にサポートする制度です。
厚生労働省の成年後見はやわかりサイトの説明によると、成年後見制度は「知的障害・精神障害・認知症などによって ひとりで決めることに不安や心配のある人が いろいろな契約や手続をするときに お手伝いする制度」とされています(出典: 厚生労働省「成年後見はやわかり」)。支援の対象になる場面としては、医療・福祉サービスの契約手続き、不適切な契約からの保護、日常的な金銭管理、遺産相続の手続きなどが挙げられています。
成年後見制度には大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあります。法定後見制度は、本人の判断能力が実際に低下してから家庭裁判所に申し立てる制度で、多くのご家庭が利用するのはこちらです。任意後見制度は、本人の判断能力が十分なうちに、将来に備えてあらかじめ後見人になってもらう人と契約しておく制度です。ALSや筋ジストロフィーなど、身体機能は重度でも判断能力自体は保たれているケースが多い重度訪問介護の利用者の場合、この任意後見制度が選択肢に入ることもあります。
障害福祉サービスの契約は、本来は利用する本人が事業所と結ぶものです。はじめての障害福祉サービス|申請の流れを5ステップでわかりやすくで解説したとおり、申請から契約までの手続きは本人(またはご家族が代筆・代行するかたちで)進めるのが一般的な流れです。判断能力に不安がある場合に、この契約行為を法律的に支える仕組みが成年後見制度だとイメージすると分かりやすいでしょう。
後見・保佐・補助は何が違う?
「後見」は多くの契約をひとりで決めることが難しい方、「保佐」は重要な契約を決めるのが心配な方、「補助」は一部の重要な契約で心配がある方向けの制度で、判断能力の程度によって使い分けられます。
厚生労働省の成年後見はやわかりサイトでは、法定後見制度の3類型が次のように説明されています(出典: 厚生労働省「成年後見はやわかり|法定後見制度とは」)。
| 類型 | 対象となる方の目安 | 権限の範囲 |
| --- | --- | --- |
| 補助 | 重要な手続・契約の中で、ひとりで決めることに心配がある方 | 家庭裁判所が定めた特定の行為のみ |
| 保佐 | 重要な手続・契約などを、ひとりで決めることが心配がある方 | 借金・訴訟・相続など重要な法律行為の同意・取消権 |
| 後見 | 多くの手続・契約などを、ひとりで決めることがむずかしい方 | 財産に関する法律行為をほぼ全般的に代理 |
3つの中でどれに該当するかは、本人の状況を医師が診断書や鑑定書で示し、最終的に家庭裁判所が審判で決定します。知的障害や精神障害のあるお子さまが将来的にこの制度を使う可能性がある場合、「後見」がもっとも支援の範囲が広く、「補助」がもっとも本人の自己決定を尊重する仕組みだと理解しておくと、専門職に相談する際の見通しが立てやすくなります。
重度訪問介護を利用されているご家庭では、身体障害はあっても知的・精神面の判断能力は保たれているケースが少なくありません。その場合は、そもそも法定後見制度の対象にならないことも多い点は、誤解しやすいポイントとして押さえておいてください。
任意後見制度はどう使う?
判断能力が十分なうちに、将来任せたい人と「誰に何を任せるか」を公正証書で契約しておく制度です。ALSや筋ジストロフィーなど進行性の疾患がある方に検討されることがあります。
任意後見制度は、法定後見制度とは順番が逆になります。法定後見は判断能力が低下した「あと」に家庭裁判所へ申し立てますが、任意後見は判断能力が十分な「うちに」、本人が自分で後見人になってほしい人(家族・友人・専門職など)を選び、財産管理や契約に関する代理権の範囲を公正証書で契約しておく仕組みです。実際に判断能力が低下した段階になったら、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任し、そこではじめて契約の効力が生じます。
進行性の疾患をお持ちの場合、「今は自分でしっかり判断できているが、将来的に病状が進んだときの備えをしておきたい」というニーズに、法定後見よりも任意後見の方が合っていることがあります。あらかじめ本人の意向を契約内容に反映できるため、「誰に」「どこまで」任せるかを本人主体で決められる点が特徴です。ただし、任意後見契約を結ぶには公正証書の作成が必要で、公証役場での手続きと費用(公証人手数料など数万円程度が目安)が発生します。具体的な費用感は公証役場や司法書士・弁護士への相談時に確認するのが確実です。
うちの家族に成年後見制度は必要?
障害福祉サービスの契約や金銭管理について、本人だけでは適切な判断が難しい場面が繰り返し起きている場合は、検討を始めるサインです。
重度訪問介護を利用中のご家庭で、成年後見制度の検討が実際に話題にあがりやすいのは、次のような場面です。
- 知的障害・精神障害を重複して持つお子さまが、将来ひとり暮らしや親なきあとの生活に備える場面:障害のある子どもの将来が不安|親なきあとに備える支援制度でも触れたとおり、財産管理や契約行為の支え手を早めに準備しておきたいという相談は多く寄せられます
- 加齢や病状の進行によって、本人の判断能力に変化が見られはじめた場面:契約内容の理解や金銭管理に不安が出てきたら、まずは相談支援専門員やケアマネジャーに状況を伝えるのが最初の一歩です
- 障害福祉サービスの利用計画や契約更新のたびに、家族が代理で判断せざるを得ない場面が続いている場合:相談支援専門員って何をしてくれる人?サービス等利用計画とセルフプランの違いで解説した相談支援専門員は、契約の適正化についても相談に乗ってくれる存在です
一方で、ALSや脊髄損傷、筋ジストロフィーなどにより身体機能に重度の制限があっても、意思疎通の手段(文字盤・視線入力・音声合成機器など)を通じて本人がはっきり意思表示できる場合は、成年後見制度の対象には該当しないのが一般的です。「体が動かせない=判断能力がない」ではない、という点は、専門職の間でも繰り返し確認される重要な前提です。すべての重度訪問介護利用者に必要な制度ではなく、判断能力そのものに不安があるケースに限られる制度だと理解しておくと、無用な不安を減らせます。
申立ての費用はどのくらいかかる?
基本的な申立手数料は800円、登記手数料は2,600円ですが、医師の鑑定が必要な場合は別途10万円以下の実費がかかるのが一般的です。
厚生労働省の成年後見はやわかりサイトによると、法定後見制度の申立てにかかる主な費用は次のとおりです(出典: 厚生労働省「成年後見はやわかり|法定後見制度とは」)。
- 申立手数料: 800円(後見・保佐・補助いずれも共通)
- 登記手数料: 2,600円
- 戸籍謄本・診断書などの取得費用: 実費(数百円〜数千円程度)
- 医師による鑑定料: 後見・保佐の場合に必要になることがあり、通常10万円以下が目安
- 郵便切手代: 家庭裁判所が指定する金額
経済的な事情でこれらの費用の負担が難しい場合は、法テラス(日本司法支援センター、電話0570-078374)の民事法律扶助制度で費用の立替を受けられる場合があります。また、さいたま市では「成年後見制度利用支援事業」として、市長申立てとなったケースや、報酬の負担が困難な生活保護受給者などを対象に、申立費用や後見人等への報酬の一部を補助する仕組みも用意されています(出典: さいたま市「成年後見制度利用支援事業(障害のある方へのご案内)について」)。お住まいの市区町村ごとに実施内容が異なるため、対象になりそうな場合は障害福祉課に直接確認するのが確実です。
親族が後見人になる場合、専門職(弁護士・司法書士等)が就任する場合と違って、報酬が発生しないケースもあります。ただし、財産の額や事案の複雑さによっては家庭裁判所が親族後見人にも報酬を認めることがあり、また親族だけでは対応が難しい複雑な財産管理がある場合は、専門職と親族が共同で後見人になる「複数後見」という選択肢が取られることもあります。
申立てはどこで、どんな流れでする?
本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、本人・配偶者・4親等内の親族などが申立てを行います。診断書の準備から審判の確定まで、数か月かかるのが一般的です。
大まかな流れは次のとおりです。
- 相談窓口で制度の要否を相談する。埼玉県内では、埼玉弁護士会・リーガルサポート埼玉支部(司法書士)・埼玉県社会福祉士会の権利擁護センターなど、専門職団体7つが相談窓口を設けています(出典: 埼玉県「成年後見制度等に関する相談窓口」)。まずは市区町村の障害福祉課や社会福祉協議会に問い合わせると、適切な窓口を案内してもらえます
- 医師の診断書を準備する。かかりつけ医に、成年後見制度用の診断書作成を依頼します。書式は家庭裁判所や医師会のサイトで入手できます
- 必要書類を揃えて家庭裁判所に申立てる。申立書、本人の戸籍謄本、診断書、財産に関する資料などをまとめて提出します
- 家庭裁判所の審理(面接・鑑定など)を経て審判が出る。鑑定が必要と判断された場合は、追加で1〜2か月程度かかることがあります
- 審判の確定後、後見登記がされ、後見人等の活動が始まる。登記事項証明書が、契約先に後見人であることを証明する書類になります
障害福祉サービスの契約時に後見人等と契約する場合、事業所側は登記事項証明書の提示を求めることで、代理権の範囲を確認する運用になっています。手続き自体は本人や家族だけで進めることも可能ですが、書類の不備で審理が長引くケースもあるため、司法書士や弁護士に依頼して進める家庭も多いのが実情です。
どの相談窓口に聞けばいい?
「制度を使うべきか迷っている段階」なら市区町村の窓口や社会福祉士会、「申立て書類を専門的に進めたい段階」なら司法書士会・弁護士会が適しています。
埼玉県内の相談窓口は役割によって次のように使い分けると、遠回りせずに済みます(出典: 埼玉県「成年後見制度等に関する相談窓口」)。
| 相談窓口 | こんな場面で頼れる | 連絡先の例 |
| --- | --- | --- |
| 市区町村の障害福祉課・社会福祉協議会 | そもそも制度を使うべきか迷っている、利用支援事業の対象か知りたい | お住まいの市区町村役場 |
| 埼玉県社会福祉士会(権利擁護センター) | 福祉的な視点から本人の生活全体を踏まえて相談したい | 048-857-1717 |
| リーガルサポート埼玉支部(司法書士)・埼玉司法書士会 | 申立て書類の作成、比較的シンプルな財産管理を任せたい | 048-845-8551/048-838-7472 |
| 埼玉弁護士会 | 財産が複雑、親族間の対立がある、訴訟が絡む可能性がある | 048-710-5666 |
多くのご家庭は、まず市区町村や社会福祉協議会の窓口で「そもそも制度が必要な状況か」を相談し、必要と判断された段階で司法書士・弁護士につなぐという順番で進めています。いきなり専門職に相談すると、費用の見通しが立たないまま話が進んでしまうこともあるため、公的な窓口を最初のワンクッションにするのがおすすめです。
申立てでつまずきやすいポイントは?
「後見人がついたら、本人は何も自分で決められなくなる」という誤解や、「親族間で後見人候補について意見が割れる」というトラブルが、申立ての現場でよく起きるつまずきです。
窓口での相談を通じてよく聞かれる失敗例・注意点を整理します。
- 類型を「後見」で申し立てたが、実際には「補助」で十分だった:本人の判断能力を過小評価して重い類型を選んでしまうと、本人の自己決定できる範囲を必要以上に制限することになります。医師の診断書の段階で、日常的にどこまで自分で判断できているかを具体的に伝えることが、適切な類型判定につながります
- 親族の誰が後見人になるかで意見が対立し、申立てが宙に浮く:家庭裁判所は必ずしも申立て時に候補とした親族を後見人に選任するとは限りません。財産管理が複雑な場合や親族間の意見が割れている場合は、家庭裁判所の判断で司法書士・弁護士などの専門職後見人が選ばれることもあります。あらかじめ専門職に相談し、選任の見通しを聞いておくと、想定外の展開に落胆せずに済みます
- 鑑定費用を見込んでおらず、想定より費用がかさんだ:鑑定が必要かどうかは申立て後に家庭裁判所が判断するため、事前に確定額は分かりません。「鑑定になった場合は10万円程度が上乗せされる可能性がある」と幅を持って予算を考えておくと、想定外の出費に慌てずに済みます
- 後見人選任後、金銭管理が厳格になりすぎて本人や家族が窮屈に感じる:後見人には本人の財産を守る義務があるため、家族であっても自由にお金を動かせなくなる場面が出てきます。申立て前に、日常生活費の扱いについて後見人候補者とすり合わせておくと、就任後の摩擦を減らせます
いずれも「制度の仕組みを知らずに申し立ててから戸惑う」というパターンが多く、申立て前の相談段階でどれだけ具体的に確認できるかが、その後のスムーズさを左右します。
まとめ|「誰かに支えてもらう仕組み」を、早めに知っておく
この記事で持ち帰っていただきたいのは、次の3点です。
- 成年後見制度は判断能力が不十分な方向けの制度であり、身体機能が重度でも判断能力が保たれている重度訪問介護の利用者すべてに必要なわけではないこと
- 制度を使うか迷ったら、まずは類型の重さを決めつけずに専門職団体や市区町村の窓口に相談し、本人の実際の判断能力に合った類型を見極めること
- 費用面で不安がある場合は、法テラスの民事法律扶助や市区町村の成年後見制度利用支援事業など、負担を軽くする仕組みがあること
在宅でのケアが長く続くと、「この先、契約や財産管理は誰が支えてくれるのか」という不安は、体力的な介護負担とは別の重さでのしかかってきます。まずは今日、ご本人が契約や金銭管理の場面で実際にどこまで自分で判断できているか、家族の間で共有できる範囲でメモに書き出してみてください。専門職への相談時、この整理があるだけで、必要な支援の範囲がぐっと具体的になります。
ノベラクトケア(株式会社Noveract)は、埼玉県川越市を拠点に、さいたま市西区にも事業所を構え、24時間365日体制で重度訪問介護を提供しています。全スタッフが医療的ケア(たんの吸引・経管栄養)の資格を保有し、川越市・さいたま市をはじめ埼玉県全域のご自宅へ伺っています。
サービスのご契約についても、判断能力に不安のあるご本人・ご家族からのご相談を歓迎しています。「後見人がいないと契約できないのでは」といった段階のご相談も含め、お電話(048-871-6572)またはお問い合わせフォームからお気軽にお寄せください。
よくある質問
成年後見制度は障害があれば誰でも使う必要がありますか?
必要ありません。成年後見制度は判断能力が不十分な方向けの制度で、身体障害があっても意思疎通の手段を通じて本人がはっきり意思表示できる場合は対象になりません。「体が動かせない=判断能力がない」ではないため、まずは専門職に相談して本人の状況を確認することが大切です。
後見人がつくと、本人は何も自分で決められなくなりますか?
そうではありません。3類型のうち「補助」は本人の自己決定を最大限尊重し、家庭裁判所が定めた特定の行為のみを支援する仕組みです。「後見」でも日常生活に関する行為は本人が自分で決められます。本人の判断能力に合った類型を選ぶことで、必要以上に自由を制限せずに済みます。
申立ての費用はどのくらいかかりますか?
基本的な申立手数料800円、登記手数料2,600円に加え、医師の鑑定が必要な場合は10万円以下の実費が目安です。経済的に厳しい場合は、法テラスの民事法律扶助や、さいたま市など市区町村の成年後見制度利用支援事業で費用の補助を受けられる場合があります。
誰が後見人になるかは家族が決められますか?
申立て時に候補者を挙げることはできますが、最終的に誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。財産管理が複雑な場合や親族間で意見が割れている場合は、司法書士・弁護士などの専門職が選ばれることもあります。
重度訪問介護の契約に、必ず成年後見人が必要ですか?
必要ありません。障害福祉サービスの契約は、判断能力があれば本人が結ぶのが基本です。成年後見人が必要になるのは、契約内容の理解や金銭管理について本人だけでは適切な判断が難しい場合に限られます。
