「人工呼吸器が必要になった」と医師から説明を受けたとき、ご家族の多くが「もう自宅では暮らせないのでは」と感じます。
それは自然な気持ちです。大がかりな機械をつけて、家で生活するなんて想像がつかないという方がほとんどだと思います。
でも、実は人工呼吸器をつけながら、自宅で生活を続けている方はたくさんいらっしゃいます。
この記事では、人工呼吸器を使いながら在宅生活を送るための仕組みや、どんな支援を受けられるのかについて、やさしくお伝えしていきます。
「呼吸器をつけたら施設」とは限りません
人工呼吸器と聞くと、病院のICU(集中治療室)のような光景を想像される方が多いかもしれません。ベッドの横に大きな機械があって、たくさんのチューブがつながっている、あのイメージです。
しかし、在宅で使われる人工呼吸器は、病院で見るものよりもずっと小型で、持ち運びできるサイズのものが多くあります。技術の進歩によって、自宅での使用を前提に作られた機器が増えてきました。
もちろん、お体の状態やご家庭の環境によっては、施設での生活が合っている場合もあります。どちらが正しいということではなく、「自宅で暮らすという選択肢もある」ということを、まず知っていただければと思います。
人工呼吸器にはどんな種類がある?
在宅で使われる人工呼吸器は、大きく分けて2つのタイプがあります。
マスク型の人工呼吸器(NPPV)
鼻や口にマスクをかぶせて、そこから空気を送り込むタイプです。NPPV(非侵襲的陽圧換気)と呼ばれることもあります。
「非侵襲的」とは、体に穴を開けたり管を入れたりしないという意味です。睡眠時無呼吸症候群で使われるCPAP(シーパップ)という装置をご存じの方もいるかもしれませんが、仕組みとしては似ています。
マスク型は比較的扱いやすく、ご本人やご家族が操作に慣れやすいのが特徴です。夜間だけ使う方もいれば、日中も含めて長時間使う方もいます。
気管切開型の人工呼吸器(TPPV)
のどに小さな穴を開けて、そこにカニューレ(短い管)を入れ、直接気道に空気を送り込むタイプです。TPPV(気管切開下陽圧換気)と呼ばれます。
マスク型では十分な呼吸のサポートが難しい場合や、たんの吸引が頻繁に必要な場合に選ばれることが多いです。
気管切開型というと大がかりに聞こえますが、在宅用の機器はコンパクトで、ベッドサイドに置いて使えるサイズです。日常的な管理は必要ですが、適切なサポートがあれば、自宅で問題なく使い続けることができます。
どちらのタイプが適しているかは、ご本人の病状や呼吸の状態によって、主治医が判断します。
在宅生活を支えるサポート体制
人工呼吸器をつけて自宅で暮らすとなると、「家族だけで見るのは無理」と思うのは当然です。実際に、ご家族だけですべてを担うのは現実的ではありません。
在宅生活を支えるためには、複数の専門職がチームを組んで、役割を分担する仕組みが用意されています。
往診医(訪問診療)
定期的にご自宅を訪れて、ご本人の体調を確認し、治療方針を決めてくれるお医者さんです。人工呼吸器の設定の確認や調整も、往診医が行います。
急な体調の変化があった場合には、電話で相談できる体制を整えてくれていることが多いです。
訪問看護
看護師がご自宅を訪問し、健康状態のチェックや医療的なケアを行います。人工呼吸器に関しては、以下のようなことを担当します。
- - 呼吸器の動作確認と管理
- - たんの吸引(気管切開の場合)
- - カニューレ周辺の皮膚のケア
- - バイタルサイン(体温・血圧・酸素飽和度など)の確認
- - ご家族への介護指導
訪問看護は、医師の指示のもとで、医療的な処置を行う役割を担っています。
重度訪問介護
重度の障害がある方が自宅で暮らすための、長時間にわたる生活支援サービスです。障害福祉の制度に基づいており、1日に数時間から、場合によっては24時間の利用も可能です。
重度訪問介護のスタッフは、医療行為そのものは行いませんが、生活全般を支えるという、とても大切な役割を果たしています。
重度訪問介護のスタッフがしてくれること
重度訪問介護のスタッフが日々行うケアには、以下のようなものがあります。
見守り
人工呼吸器をつけている方にとって、そばに誰かがいてくれること自体が、大きな安心につながります。
機器のアラームが鳴ったとき、ご本人の表情や様子がいつもと違うとき、すぐに気づいて対応できる人がそばにいることは、何よりも大切なことです。
急変時の連絡と初期対応
もしご本人の様子が急に変わったり、呼吸器にトラブルが起きたりした場合、スタッフがすぐに訪問看護や主治医に連絡します。
慌ただしい場面でも、日頃からご本人のことを知っているスタッフが的確に状況を伝えることで、迅速な対応につながります。
日常の身体介護
- - 食事の介助(食べやすい姿勢の調整なども含む)
- - 排泄の介助
- - 入浴やからだを拭く介助
- - 着替えの介助
- - 体位変換(長時間同じ姿勢でいると体に負担がかかるため、定期的に体の向きを変えます)
家事の支援
- - 食事の準備や片付け
- - 洗濯
- - 掃除
- - 買い物
コミュニケーションの支援
病気の進行などで声が出しにくくなった方に対して、文字盤やコミュニケーション機器の操作を手伝ったり、ご本人の意思を周囲に伝えるお手伝いをすることもあります。
たんの吸引(医療的ケア)
介護スタッフの中でも、所定の研修を修了し、資格を持っているスタッフは、たんの吸引や経管栄養(胃ろうからの栄養注入など)を行うことができます。
これは法律で認められた行為であり、医師や看護師の指導のもとで安全に実施されます。
呼吸器の管理は誰がするの?
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
人工呼吸器の設定や管理そのものは、医師と看護師が担当します。 介護スタッフが呼吸器の設定を変えたり、機器をいじったりすることはありません。
介護スタッフの役割は、あくまでも生活の部分を支えることです。
- - 医師が治療方針と呼吸器の設定を決める
- - 看護師が呼吸器の管理と医療的ケアを行う
- - 介護スタッフが日常生活を支え、見守りを行う
この3つの役割がしっかり分かれていることが、在宅での安全を支える基盤になっています。ご家族が「全部自分で見なければ」と思う必要はありません。
自宅に必要な環境を整える
人工呼吸器を使って自宅で暮らすためには、いくつかの環境整備が必要になります。
電源の確保
人工呼吸器は電気で動きます。安定した電源の確保は最も大切なことです。
- - コンセントの位置と数の確認
- - 停電に備えた外部バッテリーの準備
- - 可能であれば無停電電源装置(UPS)の設置(停電時に自動で電力を供給してくれる機器です)
主治医や呼吸器のメーカー、電力会社に相談すると、必要な準備について具体的なアドバイスがもらえます。電力会社には「在宅で人工呼吸器を使用している」と届け出ておくと、計画停電の際に事前連絡をもらえるなどの対応をしてもらえることがあります。
吸引器
気管切開型の人工呼吸器を使っている方は、たんの吸引が必要になることが多いです。在宅用の吸引器をベッドサイドに置いておきます。
吸引器は医療機器ですが、在宅用のものはコンパクトで操作もシンプルです。訪問看護師から使い方の説明を受けることができます。
パルスオキシメーター
指先に挟んで、血液中の酸素の量(酸素飽和度)を測る小さな機器です。呼吸の状態を日常的に確認するために使います。
ベッドまわりの環境
- - 介護用ベッド(電動で角度を変えられるもの)
- - ベッド周辺に十分なスペース(介護する方が動きやすいように)
- - 夜間でもすぐに対応できるよう、照明や呼び出しの仕組みを工夫する
これらの機器や設備の多くは、医療保険や障害福祉の制度を使って、レンタルや購入ができます。費用の自己負担が軽減される制度もありますので、主治医やケアマネジャー、相談支援専門員に確認してみてください。
ご家族の負担を減らすために
人工呼吸器を使っている方の在宅生活で、ご家族が一番心配されるのは「自分たちだけで見られるのか」ということです。
繰り返しになりますが、ご家族だけですべてを抱える必要はありません。
重度訪問介護は、1日に長時間の利用が可能なサービスです。日中の時間帯はもちろん、夜間も含めてスタッフに来てもらうことができます。ご家族が休む時間、仕事をする時間、自分のことをする時間を確保するためにも、こうした制度を活用することが大切です。
また、訪問看護や往診医との連携もありますので、医療面で判断に迷うことがあれば、すぐに専門職に相談できます。
「家族が休むこと」も、在宅生活を長く続けるためにはとても大切なケアの一つです。
不安なときは、まず相談してみてください
「人工呼吸器をつけて、本当に家で暮らせるのだろうか」
その不安は、実際にやってみるまでなかなか消えないものかもしれません。でも、今の日本には、在宅での生活を支えるための制度や専門職がしっかりと用意されています。
まずは、ご本人の状態やご家庭の状況を伝えて、どんな支援が受けられるのかを確認するところから始めてみてください。
ノベラクトケア(株式会社Noveract)は、埼玉県川越市に本社、さいたま市西区に事業所を置き、重度訪問介護を提供しています。全スタッフが医療的ケアの資格を保有しており、24時間365日の対応が可能です。
「うちの場合、在宅でやっていけますか?」というご相談からで構いません。お気軽にお電話ください。
電話番号:048-871-6572
