ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されたあと、ケアマネジャーから介護保険の話を、病院の相談員から重度訪問介護の話を聞いて、「結局どちらを使えばいいのか」と迷うご家族は少なくありません。ALSは、40歳を過ぎると介護保険の対象になる病気です。そのため、40歳以上の方は2つの制度の順番と組み合わせを知っておく必要があります。
先に、要点をまとめます。
- ALSは介護保険の特定疾病の一つです。40〜64歳の方も要介護認定を受けて介護保険を使えます。39歳以下の方は介護保険の対象外で、障害福祉サービスが中心になります
- 40歳以上の方は、介護保険が原則として先です。ただし介護保険の上限(区分支給限度基準額)で必要な介護の量をまかなえないときは、市町村が認めれば重度訪問介護を上乗せして使えます
- 訪問看護は、介護認定があっても医療保険で受けます。40〜64歳で介護保険を使い始めた方は、65歳以降の負担軽減制度(新高額障害福祉サービス等給付費)の対象から外れる点にも注意が必要です
制度の内容は、厚生労働省・埼玉県・さいたま市の公式資料で2026年10月2日に確認したものです。実際の支給の量は、お住まいの市町村が一人ひとりの状況を聞き取って決めます。
ALSは介護保険の対象になる?
なります。ALSは介護保険法施行令で定める16の特定疾病の一つで、40〜64歳の方も要介護認定を受ければ介護保険のサービスを使えます。
介護保険は、65歳以上の方(第1号被保険者)と、40〜64歳で医療保険に加入している方(第2号被保険者)が対象です。40〜64歳の方が介護保険を使えるのは、要介護状態の原因が「特定疾病」の場合に限られます。厚生労働省の「特定疾病の選定基準の考え方」には、筋萎縮性側索硬化症が16疾病の一つとして挙げられています。
年齢ごとに整理すると、次のようになります。
| 本人の年齢 | 介護保険 | 在宅介護の中心になる制度 |
|---|---|---|
| 39歳以下 | 対象外 | 障害福祉サービス(重度訪問介護など) |
| 40〜64歳 | 特定疾病として対象(第2号被保険者) | 介護保険が先、足りない分を障害福祉サービスで上乗せ |
| 65歳以上 | 対象(第1号被保険者) | 40〜64歳と同じ考え方 |
40〜64歳の方が要介護認定を申請するときは、介護保険の被保険者証ではなく医療保険の被保険者証を窓口に持参します。認定の結果は原則として申請から30日以内に通知されます(出典: 厚生労働省「介護保険制度について(40歳になられた方へ)」)。
介護保険と重度訪問介護、どちらが先?
40歳以上の方は介護保険が先です。ただし厚生労働省の通知は、一律に介護保険へ切り替えるのではなく、市町村が本人の状況を聞き取って個別に判断するよう求めています。
障害者総合支援法第7条には、ほかの制度で同じ給付を受けられるときはそちらを優先する、という調整の規定があります。介護保険の訪問介護は障害福祉の居宅介護に近いサービスなので、40歳以上でALSの方は、まず介護保険で訪問介護などを使う形になります。厚生労働省の通知でも、介護保険を使える方が要介護認定を申請していない場合は、申請するよう案内することとされています。
一方で同じ通知は、障害のある方の心身の状況やサービスが必要な理由はさまざまであるため、介護保険を一律に優先させて判断することは難しいとしています。市町村は、申請された障害福祉サービスで何をしてほしいのかを聞き取り、その支援を介護保険で受けられるかを判断します(出典: 厚生労働省「障害者総合支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」)。
ご家族として押さえておきたいのは、「介護保険があるから重度訪問介護は使えない」と最初から決まっているわけではない、という点です。65歳を迎えるときの切り替えについては、65歳になったら重度訪問介護は使えなくなる?介護保険への移行と継続のしくみで詳しく整理しています。
重度訪問介護を上乗せできるのはどんなとき?
介護保険の上限で必要な介護の量を確保できない場合、近くに使える介護保険の事業所がない場合、要介護認定で非該当になった場合の3つが、通知で示されています。
厚生労働省の通知は、介護保険で支援を受けられると判断される場合でも、次のような事情があれば、その限りで障害福祉サービスを支給できるとしています。
- 上限で足りない: 市町村が必要と認める支給量を、介護保険の区分支給限度基準額の範囲だけでは確保できない場合
- 事業所がない・空きがない: 使える介護保険の事業所が身近にない、または定員に空きがない場合(その事情が解消するまで)
- 認定で非該当: 要介護認定で非該当と判定されたが、なお障害福祉サービスによる支援が必要と市町村が認める場合
ALSの方で多くあてはまるのは1つ目です。区分支給限度基準額は、要介護5でも1か月36,217単位です(出典: 目黒区「区分支給限度額」)。進行して、呼吸や体位変換、意思疎通のために一日の大半で介護者がそばにいる必要が出てくると、この範囲の訪問介護だけでは時間が足りなくなります。足りない時間帯を、障害福祉の重度訪問介護で埋めるのが「上乗せ」です。
上乗せで重度訪問介護を使うには、障害福祉サービスの申請と、障害支援区分の認定が別に必要です。重度訪問介護の対象は、障害支援区分4以上で、二肢以上に麻痺等があり、認定調査の「歩行」「移乗」「排尿」「排便」がいずれも「支援が不要」以外と認定された方などです(出典: 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」)。認定調査でどんなことを聞かれるかは、障害支援区分の認定調査で聞かれる80項目|家族が知っておきたい答え方の基準で解説しています。支給される時間数の決まり方は、重度訪問介護の「支給時間」はどう決まる?足りないと感じたときの考え方をご覧ください。
なお、ALSは障害者総合支援法の対象疾病(2025年4月から376疾病)に含まれています。身体障害者手帳を持っていなくても、病名がわかる診断書などを持って市区町村の窓口で障害福祉サービスを申請できます(出典: 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」周知用リーフレット)。
訪問看護は介護保険と医療保険のどちら?
医療保険です。ALSは訪問看護の「厚生労働大臣が定める疾病等」に含まれるため、要介護認定を受けていても訪問看護は医療保険で受けます。
訪問看護は、ふつう介護認定を受けている方なら介護保険で使います。ところが、ALSなど「厚生労働大臣が定める疾病等」の方は、介護保険の訪問看護は行わず、医療保険の訪問看護に移ります。この対象の方は、医療保険で週4日以上の訪問看護を利用できます(出典: 全国訪問看護事業協会「『厚生労働大臣が定める疾病等』について」)。訪問の回数や組み合わせは、主治医の指示書と訪問看護ステーションとの相談で決まります。
そのため、40歳以上のALSの方の在宅生活は、次の3つの制度の組み合わせになることが多くなります。
| 支援 | 使う制度 | 申請・相談先 |
|---|---|---|
| 訪問介護(身体介護・生活援助など) | 介護保険 | 市区町村の介護保険の窓口、ケアマネジャー |
| 長時間の見守り・介護(足りない分) | 障害福祉サービス(重度訪問介護) | 市区町村の障害福祉の窓口、相談支援専門員 |
| 訪問看護 | 医療保険 | 主治医、訪問看護ステーション |
看護師が行うことと重度訪問介護のヘルパーが行うことの違いは、重度訪問介護と訪問看護・訪問診療はどう違う?在宅医療との連携ガイドで整理しています。
申請はどの順番で進めればいい?
指定難病の医療費助成、要介護認定、障害福祉サービスの3つは窓口が別です。順番を待たずに並行して申請し、ケアマネジャーと相談支援専門員に連携してもらうのが近道です。
3つの手続きは互いの結果を待つ必要はありません。結果が出るまでの期間がそれぞれ違うため、診断を受けたら早めに動き出します。
- 指定難病の医療費助成: ALSは指定難病(告示番号2)です(出典: 難病情報センター)。埼玉県では住所地を管轄する保健所が窓口で、申請から受給者証の交付までおおむね2〜3か月かかります(出典: 埼玉県「指定難病医療給付制度申請の手続き(新規申請)」)。さいたま市にお住まいの方は、さいたま市保健所または各区役所の保健センターに申請します(出典: さいたま市「さいたま市指定難病医療給付制度」)
- 要介護認定(40歳以上): 市区町村の介護保険の窓口に申請します。認定が出たらケアマネジャーとケアプランを作ります
- 障害福祉サービス: 市区町村の障害福祉の窓口に申請し、障害支援区分の認定調査を受けます。相談支援専門員がサービス等利用計画を作ります
上乗せの量を決めるとき、市町村は介護保険の担当課やケアマネジャーとも連携して状況を把握することとされています。ケアマネジャーと相談支援専門員が同じ情報を持っていると、「介護保険で何時間、重度訪問介護で何時間」という組み立てが進めやすくなります。相談支援専門員の役割は相談支援専門員って何をしてくれる人?サービス等利用計画とセルフプランの違いで説明しています。
窓口で伝えると話が早いのは、「どの時間帯に、どんな介護が、何時間必要か」です。たとえば「夜間は2時間おきの体位変換とたんの吸引があり、家族が眠れていない」のように、時間帯と場面で伝えます。
自己負担はどう変わる?
介護保険の分は40〜64歳なら所得にかかわらず1割、重度訪問介護の分は世帯の所得に応じた月の上限額までです。両方を使うと、それぞれに自己負担が生じます。
| 制度 | 自己負担の決まり方 |
|---|---|
| 介護保険(40〜64歳) | 費用の1割(所得にかかわらず。出典: 厚生労働省「介護保険制度について(40歳になられた方へ)」) |
| 介護保険(65歳以上) | 費用の1〜3割(所得による) |
| 障害福祉サービス | 負担上限月額まで。生活保護・市町村民税非課税世帯は0円、課税世帯で所得割16万円未満は9,300円、それ以外は37,200円(出典: 厚生労働省「障害者の利用者負担」) |
介護保険の区分支給限度基準額を超えて介護保険のサービスを使った分は、全額自己負担になります。上限を超えた時間を自費で埋めるのではなく、重度訪問介護の上乗せを市町村に相談するのが先です。
もう一つ、40〜64歳で介護保険を使い始める方に知っておいてほしいのが、65歳以降の負担軽減制度との関係です。「新高額障害福祉サービス等給付費」は、65歳になる前の5年間続けて重度訪問介護などを使っていた方が、65歳以降に介護保険へ移ったときの自己負担を軽くする制度です。ただし、要件の一つに「40歳から65歳までの間に特定疾病により介護保険サービスを利用していないこと」があります(出典: 船橋市「新高額障害福祉サービス等給付費のご案内」)。40代・50代でALSのため介護保険を使っている方は、この制度の対象になりません。介護保険を使うべきでない、という意味ではありません。65歳以降の負担を見通すときに、この点を前提に置いておく必要があります。
埼玉で重度訪問介護の事業所を探すときは?
市区町村の支給決定が出たあと、受給者証を持って事業所と契約します。ALSの方は夜間や医療的ケアの体制が合うかどうかを、契約前に確認しておきます。
支給の量を決めるのは市区町村で、事業所ではありません。そのうえで、事業所を探す段階では次の点を確かめておくと、支給決定後に慌てずにすみます。
- 夜間や長時間の支援に対応できるか(どの時間帯に入れるか)
- たんの吸引・経管栄養などの医療的ケアに対応できるスタッフがいるか
- 人工呼吸器を使っている、または使う予定がある場合の対応
- 訪問看護ステーションや主治医との連絡の取り方
事業所の選び方と契約の流れは重度訪問介護の事業所はどう選ぶ?契約の流れと複数利用・変更のしかたにまとめています。診断直後に家族が取り組むことの全体像は、ALSと診断されたら|家族が最初にやるべきこと・使える支援制度をご覧ください。
ノベラクトケアはALSの方の重度訪問介護に対応しています
ノベラクトケア(株式会社Noveract)は、埼玉県川越市に本社、さいたま市西区に事業所を置き、24時間365日体制で重度訪問介護を提供しています。全スタッフが喀痰吸引・経管栄養の医療的ケア資格を持っています。
「介護保険の訪問介護は使っているが、夜間の時間が足りない」「上乗せの申請を考えているので、対応できる時間帯を知りたい」といった段階のご相談も受け付けています。支給決定は市区町村が行うもので、当社が決めるものではありません。当社からお伝えできるのは、対応できる支援の内容と受け入れの状況です。
ご相談はお問い合わせフォーム、またはお電話(048-871-6572)でどうぞ。
よくある質問
ALSで40歳以上の場合、介護保険と重度訪問介護は併用できますか?
できます。40歳以上の方は介護保険が原則として先ですが、介護保険の区分支給限度基準額の範囲では必要な介護の量を確保できないと市町村が認めた場合、足りない分を障害福祉サービスの重度訪問介護で上乗せできます。重度訪問介護を使うには、障害福祉サービスの申請と障害支援区分の認定が別に必要です。
介護保険の要介護認定を申請しないで、重度訪問介護だけを使うことはできますか?
厚生労働省の通知では、介護保険を使える方が要介護認定を申請していない場合、市町村は申請するよう案内することとされています。40歳以上のALSの方は、まず要介護認定を申請したうえで、足りない分の上乗せを相談する流れが基本です。
ALSの訪問看護は介護保険ですか、医療保険ですか?
医療保険です。ALSは訪問看護の「厚生労働大臣が定める疾病等」に含まれるため、要介護認定を受けていても医療保険で訪問看護を受けます。医療保険では週4日以上の訪問看護を利用できます。
身体障害者手帳がなくても重度訪問介護を申請できますか?
できます。ALSは障害者総合支援法の対象疾病に含まれているため、手帳がなくても、病名がわかる診断書などを持って市区町村の窓口で障害福祉サービスを申請できます。重度訪問介護の利用には障害支援区分4以上などの条件があります。
40代・50代で介護保険を使うと、65歳以降の自己負担に影響はありますか?
65歳以降の負担軽減制度である新高額障害福祉サービス等給付費は、40歳から65歳までの間に特定疾病により介護保険サービスを利用していないことが要件の一つです。40〜64歳でALSのため介護保険を使っている方は、この制度の対象になりません。
参考・出典
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「介護保険制度について(40歳になられた方へ)」
- 厚生労働省「障害者総合支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」
- 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
- 厚生労働省「障害者の利用者負担」
- 全国訪問看護事業協会「『厚生労働大臣が定める疾病等』について」
- 難病情報センター「筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)」
- 埼玉県「指定難病医療給付制度申請の手続き(新規申請)」
- さいたま市「さいたま市指定難病医療給付制度」
- 目黒区「区分支給限度額(介護保険から給付される一か月あたりの上限額)」
- 船橋市「新高額障害福祉サービス等給付費のご案内」

