病院で「遷延性意識障害」と説明を受け、退院の話が出はじめたとき、多くのご家族が同じところで立ち止まります。ケアマネジャーに相談すればいいのか、障害福祉の窓口なのか。介護保険は使えるのか。調べるほど話が食い違って見えるのは、意識障害になった原因と本人の年齢によって、最初に使う制度が変わるからです。
先に、要点をまとめます。
- 40〜64歳の方は、原因で分かれます。脳出血・脳梗塞・くも膜下出血などの脳血管疾患が原因なら介護保険の特定疾病にあたり、介護保険が原則として先です。交通事故などの頭部外傷や、心停止のあとの低酸素脳症は16の特定疾病に挙げられておらず、障害福祉サービスが中心になります
- 65歳以上は原因にかかわらず介護保険が先、39歳以下は障害福祉サービスが中心です。介護保険の上限で必要な介護をまかなえないときは、市町村が認めれば重度訪問介護を上乗せできます
- 障害福祉サービスを使うには、まず身体障害者手帳の申請が入口になることが多く、そのうえで障害支援区分の認定を受けます。自動車事故が原因の場合は、自動車事故対策機構(ナスバ)の療護センターや介護料も確認しておきます
制度の内容は、厚生労働省・自動車事故対策機構などの公式資料で2026年10月9日に確認したものです。実際に使える制度や支給の量は、お住まいの市区町村が一人ひとりの状況を聞き取って決めます。
遷延性意識障害とはどんな状態?
治療を続けても、自分で動く・食べる・意思を伝えることがほとんどできない状態が3か月以上続いているものを指します。「植物状態」とも呼ばれます。
自動車事故対策機構(ナスバ)の療護施設のパンフレットは、日本脳神経外科学会の定義として、次の6項目の状態が医療努力によっても改善されずに3か月以上続いたものを「植物状態」と紹介し、「遷延性意識障害」とも言われるとしています。
- 自力移動が不可能である
- 自力摂食が不可能である
- 屎尿失禁状態にある
- 眼球はかろうじて物を追うこともあるが、認識はできない
- 声を出しても、意味のある発言はまったく不可能である
- 目を開け、手を握れというような簡単な命令にはかろうじて応ずることもあるが、それ以上の意思の疎通は不可能である
主な原因には、交通事故や転落による頭部外傷、脳出血・脳梗塞・くも膜下出血、心停止や窒息のあとの低酸素脳症があります。在宅介護の制度選びでは、この原因が意味を持ちます。
在宅での一日は、体位変換、たんの吸引、経管栄養、おむつ交換、口の中のケア、表情や体温の変化の見守りが、昼も夜も続きます。家族だけで24時間を回すのは難しいため、制度を組み合わせて介護の担い手を増やすことが在宅生活の前提になります。
介護保険は使える?
65歳以上なら使えます。40〜64歳は原因しだいで、脳血管疾患が原因なら使え、頭部外傷や低酸素脳症が原因なら使えません。39歳以下は介護保険の対象外です。
40〜64歳の方が介護保険を使えるのは、要介護状態の原因が介護保険法施行令で定める16の「特定疾病」の場合に限られます。厚生労働省の「特定疾病の選定基準の考え方」には、脳血管疾患が特定疾病の一つとして挙げられています。一方で、頭部外傷や低酸素脳症は16の疾病に含まれていません。
| 本人の年齢 | 原因 | 介護保険 | 在宅介護の中心になる制度 |
|---|---|---|---|
| 39歳以下 | 問わない | 対象外 | 障害福祉サービス(重度訪問介護など) |
| 40〜64歳 | 脳出血・脳梗塞・くも膜下出血など(脳血管疾患) | 特定疾病として対象 | 介護保険が先、足りない分を重度訪問介護で上乗せ |
| 40〜64歳 | 交通事故・転落などの頭部外傷、心停止後などの低酸素脳症 | 対象外 | 障害福祉サービス(重度訪問介護など) |
| 65歳以上 | 問わない | 対象 | 介護保険が先、足りない分を重度訪問介護で上乗せ |
介護保険が先になる方でも、重度訪問介護が使えなくなるわけではありません。厚生労働省の通知は、介護保険の区分支給限度基準額の範囲で市町村が必要と認める量をまかなえない場合などに、障害福祉サービスを支給できるとしています(出典: 厚生労働省「障害者総合支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」)。上乗せの考え方は、同じく介護保険の特定疾病にあたる病気を例にALSは介護保険と重度訪問介護どちらを使う?40〜64歳の併用ルールと申請の順番で詳しく説明しています。65歳を迎えるときの切り替えは65歳になったら重度訪問介護は使えなくなる?介護保険への移行と継続のしくみをご覧ください。
原因が一つに決めきれない場合もあります。どちらの制度から申請するかは、主治医の診断書の内容をもとに市区町村の窓口が判断するので、入院中に病院の医療ソーシャルワーカーへ「介護保険の特定疾病にあたるか」を確認しておくと手続きが進めやすくなります。
重度訪問介護を使うには何が必要?
身体障害者手帳の交付を受けたうえで障害福祉サービスを申請し、障害支援区分4以上などの条件を満たす必要があります。条件を満たすかどうかは市区町村が認定します。
障害福祉サービスの対象となる「身体障害者」は、身体障害者福祉法で、身体障害者手帳の交付を受けた18歳以上の方と定められています(出典: 身体障害者福祉法第4条)。ALSなどの難病は手帳がなくても申請できますが、遷延性意識障害は障害者総合支援法の対象疾病(難病等)の一覧にはないため、多くの方は手帳の申請から始めます。手帳の診断書は都道府県が指定した医師が書くので、いつ診断書を作れるかを主治医に確認しておきます。
重度訪問介護の対象は、障害支援区分4以上で、二肢以上に麻痺等があり、認定調査の「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外と認定された方などです(出典: 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」)。区分は、市区町村の認定調査と審査会を経て決まります。認定調査で聞かれる内容は障害支援区分の認定調査で聞かれる80項目|家族が知っておきたい答え方の基準にまとめています。
支給される時間数も市区町村が決めます。申請のときは、一日のうち家族が介護できない時間帯と、その時間に必要な介助(体位変換、たんの吸引、経管栄養、おむつ交換など)を書き出して持参すると、必要な量が伝わりやすくなります。時間数の決まり方は重度訪問介護の「支給時間」はどう決まる?足りないと感じたときの考え方をご覧ください。
ヘルパーはたんの吸引や経管栄養もできる?
研修を修了して都道府県に登録した介護職員は、医師の指示のもとで、たんの吸引と経管栄養を行えます。病状の判断や医療機器の設定は、医師と看護師の役割です。
社会福祉士及び介護福祉士法の改正によって、一定の研修を修了し都道府県に登録した介護職員等が、たんの吸引と経管栄養を行えるようになりました(出典: 厚生労働省「喀痰吸引等(たんの吸引等)の制度について」)。重度訪問介護のヘルパーがこの研修を修了していれば、長時間の見守りのなかで吸引や経管栄養にも対応できます。
一方で、呼吸状態や発熱の評価、薬の調整、医療機器の管理などは、訪問診療の医師や訪問看護の看護師が担います。在宅の体制は、次のように役割を分けて組み立てます。
| 支援 | 担う人 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 重度訪問介護 | 研修を修了したヘルパー | 長時間の見守り、体位変換、おむつ交換、着替え、口の中のケア、登録した範囲のたんの吸引・経管栄養 |
| 訪問看護 | 看護師 | 体調の観察と評価、医療処置、医師との連絡 |
| 訪問診療 | 医師 | 診察、処方、医療機器の管理の指示 |
3つのサービスの違いと連携のしかたは重度訪問介護と訪問看護・訪問診療はどう違う?在宅医療との連携ガイドで整理しています。夜間の吸引に不安がある方は夜間の吸引・人工呼吸器が不安な方へ|埼玉で夜も医療的ケアに対応できる在宅支援もあわせてご覧ください。
退院して在宅に移るまでに何を準備する?
手帳・障害福祉サービス(または介護保険)の申請、訪問診療と訪問看護の確保、ベッドや吸引器などの用具の手配を、退院日から逆算して並行で進めます。
障害福祉サービスの支給決定までは、障害支援区分の認定を経るため時間がかかります。退院の見通しが立った段階で、病院の医療ソーシャルワーカーに次の項目を一緒に確認してもらうと、抜けが減ります。
- 身体障害者手帳の申請: 診断書を書ける指定医と、申請先(市区町村の障害福祉の窓口)を確認します
- 障害福祉サービスの申請: 40〜64歳で脳血管疾患が原因の方と65歳以上の方は、要介護認定の申請も並行します
- 相談支援専門員またはケアマネジャーの決定: サービス等利用計画やケアプランを作る担当者です
- 訪問診療・訪問看護の確保: 退院前に主治医から紹介を受けておくと、退院当日から医療とつながります
- 用具の手配: 特殊寝台(介護用ベッド)、床ずれ防止用のマット、体位変換器、電気式たん吸引器などは、障害福祉の日常生活用具や介護保険の福祉用具で用意できる場合があります。どの制度で何がもらえるかは介護用品・福祉用具の助成は何がある?補装具と日常生活用具の違いと自己負担・申請の順番で整理しています
- 退院前の打ち合わせ: 病院・訪問診療・訪問看護・ヘルパー事業所・家族が集まり、吸引や体位変換の方法と夜間の連絡先をそろえます
入院中にいつものヘルパーが付き添えるかどうかは、障害支援区分などの条件によります。入院中の重度訪問介護については入院しても、いつものヘルパーにそばにいてほしい|入院中の重度訪問介護ガイドで説明しています。
交通事故が原因のときに確認したい公的支援は?
自動車事故が原因の場合は、自動車事故対策機構(ナスバ)の療護センターと介護料を確認します。どちらも国土交通省所管の独立行政法人が運営する公的な支援です。
ナスバは、自動車事故による脳損傷で遷延性意識障害を負った方の専門病院として、療護センター4か所と委託病床を運営しています。入院の要件の一つは「ナスバスコア(遷延性意識障害重症度評価表)」の合計点が30点以上であることで、入院期間はおおむね3年以内です。住所地に関係なく、いずれの療護施設にも申し込めます(出典: ナスバ「療護施設パンフレット」)。
| 埼玉から比較的近い療護施設 | 種類 | 所在地 |
|---|---|---|
| 千葉療護センター | 療護センター | 千葉県千葉市美浜区 |
| 湘南東部総合病院 | 委託病床 | 神奈川県茅ヶ崎市 |
| 茨城リハビリテーション病院 | 委託病床 | 茨城県守谷市 |
また、自動車事故で脳・脊髄または胸腹部の臓器を損傷して重い後遺障害があり、移動・食事・排せつなどに常時または随時の介護が必要な方には、ナスバの介護料が支給されます(出典: ナスバ「介護料のご案内」)。介護保険など他の制度の給付との関係で受け取れない場合があるため、対象になるかはナスバの支所に確認します。
損害賠償や後遺障害の等級認定は、弁護士などの専門家の領域です。この記事では扱いません。
費用はどのくらいかかる?
重度訪問介護の自己負担は世帯の所得に応じた月の上限額までで、生活保護・市町村民税非課税世帯は0円です。介護保険を使う分には別に1〜3割の負担がかかります。
| 制度 | 自己負担の決まり方 |
|---|---|
| 障害福祉サービス(重度訪問介護など) | 負担上限月額まで。生活保護・市町村民税非課税世帯は0円、課税世帯で所得割16万円未満は9,300円、それ以外は37,200円(出典: 厚生労働省「障害者の利用者負担」) |
| 介護保険(40〜64歳) | 費用の1割(出典: 厚生労働省「介護保険制度について(40歳になられた方へ)」) |
| 介護保険(65歳以上) | 費用の1〜3割(所得による) |
医療費や生活費を支える制度もあります。埼玉県で重度の障害がある方の医療費の自己負担を助成する制度は重度心身障害者医療費助成(マル福)とは?埼玉県の対象・自己負担・申請をやさしく解説、在宅で常時特別の介護が必要な方への手当は特別障害者手当とは?月額30,450円の対象・申請方法と埼玉県の在宅手当をやさしく解説をご覧ください。どちらも対象や所得の条件があるため、市区町村の窓口で確認します。
埼玉で重度訪問介護の事業所を探すときは?
支給決定が出たあと、受給者証を持って事業所と契約します。遷延性意識障害の方は、夜間に入れるか、たんの吸引と経管栄養に対応できるヘルパーがいるかを契約前に確認します。
事業所への問い合わせは、退院の見通しが立った段階で始めます。問い合わせのときは、次の点を確かめておきます。
- 夜間や長時間の支援に対応できるか(どの時間帯に入れるか)
- たんの吸引・経管栄養に対応できるヘルパーがいるか
- 気管切開や人工呼吸器がある場合の対応
- 訪問看護ステーションや主治医との連絡の取り方
- 退院前の打ち合わせに参加できるか
事業所の選び方と契約の流れは重度訪問介護の事業所はどう選ぶ?契約の流れと複数利用・変更のしかたにまとめています。
ノベラクトケアは遷延性意識障害の方の重度訪問介護のご相談を受け付けています
ノベラクトケア(株式会社Noveract)は、埼玉県川越市に本社、さいたま市西区に事業所を置き、24時間365日体制で重度訪問介護を提供しています。全スタッフが喀痰吸引・経管栄養の医療的ケア資格を持っています。
「退院の時期が決まり、夜間に入れる事業所を探している」「申請中だが、対応できる時間帯を先に知っておきたい」といった段階のご相談も受け付けています。使える時間の量は市区町村の支給決定で決まります。当社からお答えするのは、どの時間帯に入れるか、どんな介助に対応できるかという受け入れの見通しです。
ご相談はお問い合わせフォーム、またはお電話(048-871-6572)でどうぞ。
よくある質問
遷延性意識障害の家族は、介護保険を使えますか?
65歳以上の方は使えます。40〜64歳の方は、原因が脳出血・脳梗塞・くも膜下出血などの脳血管疾患なら特定疾病として使えますが、交通事故などの頭部外傷や低酸素脳症が原因なら介護保険の対象外です。39歳以下の方も対象外で、障害福祉サービスが中心になります。
介護保険を使っていても、重度訪問介護を使えますか?
使える場合があります。介護保険の区分支給限度基準額の範囲では、市町村が必要と認める介護の量をまかなえないときなどに、足りない分を重度訪問介護で上乗せできます。障害福祉サービスの申請と障害支援区分の認定が別に必要です。
身体障害者手帳がないと重度訪問介護は使えませんか?
遷延性意識障害は障害者総合支援法の対象疾病(難病等)の一覧にないため、身体障害者手帳の申請から始めるのが一般的です。手帳の診断書は都道府県が指定した医師が書くので、いつ作れるかを主治医に確認してください。
ヘルパーにたんの吸引や経管栄養を頼めますか?
研修を修了して都道府県に登録したヘルパーであれば、医師の指示のもとで、たんの吸引と経管栄養を行えます。病状の評価や医療処置は、訪問看護の看護師や訪問診療の医師が担います。
交通事故が原因の場合、ほかに使える公的な支援はありますか?
自動車事故対策機構(ナスバ)が、遷延性意識障害の方の専門病院である療護センターと委託病床を運営しています。また、自動車事故で重い後遺障害があり常時または随時の介護が必要な方には介護料の支給があります。対象になるかはナスバに確認してください。
参考・出典
- 自動車事故対策機構(ナスバ)「療護施設パンフレット」
- 自動車事故対策機構(ナスバ)「療護施設の概要」
- 自動車事故対策機構(ナスバ)「介護料のご案内」
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」
- 厚生労働省「障害者総合支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」
- e-Gov法令検索「身体障害者福祉法」
- 厚生労働省「障害者総合支援法の対象疾病(難病等)」
- 厚生労働省「障害福祉サービスの内容」
- 厚生労働省「喀痰吸引等(たんの吸引等)の制度について」
- 厚生労働省「障害者の利用者負担」
- 厚生労働省「介護保険制度について(40歳になられた方へ)」

